7-14. 動物細胞用ウイルスベクター
https://gyazo.com/c46126ed3d416a19ff66aa9dd02da825
https://amzn.to/2I6DMZu
ウイルスは細胞に効率的に遺伝子を導入するために最良の手段
動物個体に関してはおそらく唯一の方法であるため、遺伝子治療にも応用される
ベクターとして使う組換えウイルスは安全性という視点が特に重要視され、通常は、非増殖性(感染するが子ウイルスはつくらない)として使用することが原則となっている
1) レトロウイルスベクター
レトロウイルスの増殖
レトロウイルスはRNAウイルスだが、逆転写酵素によりいったん一本鎖DNAになる
プライマーはtRNA. 鋳型RNAは酵素のRNaseH活性で分解される
一本鎖DNAは環状二本鎖DNAに変換され、逆転写酵素のもつ組込み酵素活性によって宿主ゲノムに組込まれる
組込まれたDNAをプロウイルスという
プロウイルスから転写されたRNAはウイルスRNAになるとともに、gag、pol、env遺伝子(それぞれからは、芯のタンパク質、逆転写酵素、外殻タンパク質がつくられる)が発現・翻訳され、形態形成・パッケージング後、ウイルスが細胞を殺さず、出芽により継続的に出てくる
https://gyazo.com/a566724a7bb326cb3723693f972466fd
増殖の制御
プロウイルスの両端にはLTR(long terminal repeat)という数百〜数千塩基の反復配列があり、その中にはエンハンサーやプロモーターがある
gag遺伝子上流にRNAのパッケージングに必要なψ配列と、DNA合成のためのプライマー結合部位(pbs)がある
プロウイルスはレトロトランスポゾンなので、LTRと上記制御配列さえあれば、RNAは内部配列にかかわりなくウイルスタンパク質によってウイルス粒子内にパッケージングされる
スプライシングされたRNAはψ配列がないため、ウイルス粒子に取り込まれない
ベクター作製と利用の概要
通常はマウス白血病ウイルスの1つ、Mo-MuLVが利用される
ウイルスタンパク質をつくれるがψ配列を欠いたプロウイルスをもつパッケージング細胞を用意する
環状二本ウイルスDNAとして最小限必要な機能(LTR, ψ, pbs)をもち、内部にプラスミドベクターユニットのDNA、マーカー遺伝子、そして目的遺伝子をもつ組換え(ウイルス)DNAをつくる
組換えDNAをパッケージング細胞に導入し、宿主ゲノムに組込ませる
組換えプロウイルスから転写されたRNAがパッケージングされ、組換えウイルスとして産生される
組換えウイルスを目的細胞に感染させ、ゲノムに組込ませる。組換えプロウイルスからRNAとともに目的タンパク質が発現される
https://gyazo.com/93cea6cae97979d642dfb73d821b9186
ベクターの特徴
パッケージング細胞から産生される組換えウイルスは感染性はあるが増殖性はない
元のプロウイルス由来RNAはψ配列がないのでウイルス殻に入らない
感染細胞は生存し続け、ベクターに組込んだDNAはゲノムに組み込まれてから発現するので、遺伝子機能の恒常的発現が期待される
プロウイルスDNAの組み込み数は少数であるが、組込み一は定まっておらずランダム
通常、ベクターには核移行シグナルがないため、核膜が保持されている分裂期以外の時期にある細胞ゲノムへの遺伝子導入効率は低い
→非増殖細胞では使いにくいという欠点がある
Column エイズウイルスをベクターとして使う ?!
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)
エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルス
レトロウイルスの亜種でレンチウイルスに属し(形態的には通常のレトロウイルスがC型に属するものに対しD型に属する)、表面にCD5タンパク質をもつ特定のリンパ球に感染する
レトロウイルスは増殖している細胞のゲノムにしかウイルス核酸を導入できないが、レンチウイルスは複数の核移行シグナルをもつために、核膜を保持している非増殖時の細胞にも遺伝子を導入できると考えられ、ベクターがつくられている
むろん安全性のために、ウイルスベクターからは複製にかかわる機能は除かれており、粒子形成と感染にかかわる配列部分しか保持していない(粒子形成と感染に働くタンパク質は別のベクターから供給するという二重の安全策がとられている)
特定の細胞種にしか感染できないという欠点があったが(ウイルスの感染性はウイルス粒子の外側にあるエンベロープタンパク質によって規定される)、エンベロープタンパク質を感染細胞種域の広い別のウイルスのタンパク質に置き換えるという工夫が施されている
2) アデノウイルスベクター
アデノウイルス
アデノウイルスは約35 kbの線状DNAをゲノムにもち、それが殻タンパク質に包まれ、広い範囲の生物種の哺乳類細胞に感染する
多くの分化・未分化細胞、さらには休止期の細胞にも100%に近い効率で感染する
ウイルスDNAは核移行して複製・転写が起こるが、宿主ゲノムへの積極的な組込みはない
比較的長い一過的遺伝子発現をねらった操作に適し、遺伝子治療にも使われる
ベクター
組換えウイルス作製法はいろいろなものがあるが、初期の方法は、ウイルスDNA中の増殖必須遺伝子(e.g. E1A, E1B)を挿入失活で破壊したものを、その必須遺伝子産物が発現する相補細胞に導入し、ウイルス粒子として放出させるもの
その後、ウイルスにパッケージングされる部分を残してすべてを外来DNAに置換したベクターを、パッケージングされないようにした非増殖型のヘルパーウイルスとともに上記相補細胞に導入し、ベクターをウイルス粒子として放出させる方法、あるいはヘルパーウイルスとの間で細胞内組換え反応を起こさせ、組換えDNAをウイルスとして放出させる方法も開発された
いずれの方法も、組換えウイルスは非増殖性で、理論上、ヘルパーウイルスの産生は起こらない
3) その他の動物ウイルス
哺乳類細胞で使えるウイルスベクターとなる外のウイルス
アデノ随伴ウイルス(AAV:adeno-associated virus)
アデノウイルスなどの助けによって増殖する一本鎖DNAウイルスで、分裂細胞、非分裂細胞のいずれの細胞にも感染することができる
ヒトゲノムの特定の位置(19番染色体長腕にあるAAVS1部位)に組込まれるため、組み込み用ベクターとして使われるが、組込み部位が限定されているため、レトロウイルスのように組込みによる宿主遺伝子発現に対する影響や細胞のがん化などのリスクがなく、安全と考えられるため、遺伝子治療の道具としても利用される
ワクシニアウイルス
安全性の高いワクチン(種痘)株に限られる
EBウイルス/単純ヘルペスウイルス
上のものとは異なり、タンパク質大量生産で使用されるものに、昆虫細胞で増えるバキュロウイルスがある